大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

福岡地方裁判所 昭和46年(わ)811号 判決

被告人 山本政利

昭二四・一・一九生 自動車解体業手伝

田平一久

昭二六・一・一三生 大工見習

主文

被告人両名をそれぞれ懲役三年に処する。

被告人両名に対し、この裁判確定の日からいずれも四年間それぞれその刑の執行を猶予する。

理由

(罪となるべき事実)

被告人両名は高尾光徳と共に、昭和四六年一一月一〇日午前三時ごろ、福岡市住吉三丁目四番五号所在のスナツク「ニユーサチ」で飲酒した後、同スナツク前路上に出たところ、たまたま同所に駐車した軽四輪乗用自動車内で、酒の酔をさますため仮眠していた松下匠(当時二一年)を認め、同人を起して「博多駅まで送つてくれ。」と頼み「まだ酔つているから。」と断る同人に「ちよつと送つてやれ。博多駅までやけん。」と言つて強引にこれを承知させ、同人の運転する右自動車に乗せてもらい、国鉄博多駅方面に向つたところ、右松下が乱暴な運転をしたため、これは右松下に右博多駅まで乗せていつてくれと無理に頼んだ被告人らに対する当てつけにやつているものと考え、被告人両名および右高尾は右松下の右態度に腹を立て、同人を殴ろうと意思相通じ、被告人山本において、右松下に進路を指示して、右自動車を前記「ニユーサチ」から約六キロメートル離れた同市大字下臼井板付空港北側オーバーラン草原まで運転走行させたうえ、同日午前四時ごろ、同所において、後部座席に乗つていた高尾において、いきなり右松下の後頭部を手拳で一回殴打し、ついで被告人山本において、右松下に「外に出ろ。」と申し向け、同人が右自動車から降りるや、すぐさまその左眼付近を右手拳で一回殴打して同人をその場に転倒させ、引き続き被告人両名および右高尾において、こもごも右松下の頭部、顔面、腹部等を一〇数回殴る蹴る等の暴行を加え、このため同人がその場にうずくまり全く反抗不能の状態になるや、被告人両名および右高尾において、右反抗不能の状態に乗じ、右松下から金品をも強取しようと意思相通じ、被告人田平において、同人のポケツトより同人所有の現金約六、九八〇円被告人山本において、腕時計一個(時価四、〇〇〇円相当)を強取したところ、右松下が被告人らの隙をみて、その場から走つて逃げ出したので、被告人両名および右高尾において、これを追いかけ、更に右松下にこもごも数回殴る蹴るの暴行を加え、その際被告人らの右一連の暴行により、右松下に対し加療約六日間を要する全身打撲傷の傷害を負わせたが、これらの傷害は、被告人らの前記強盗の犯意を生じた前後のいずれの暴行によるものか明らかでないものである。

(証拠の標目)(略)

(法令の適用)

被告人らの判示所為のうち、強盗の点は刑法六〇条、二三六条一項に、傷害の点は刑法六〇条、二〇四条、罰金等臨時措置法三条一項一号に該当するところ、強盗と傷害とは後記のとおり包括一罪として評価すべきものであるから、刑法一〇条により一罪として重い強盗罪の刑で処断することとし、被告人らにはいずれも犯罪の情状に憫諒すべきものがあるから同法六六条、七一条、六八条三号により酌量減軽した刑期の範囲内で被告人両名をそれぞれ懲役三年に処し、情状により同法二五条一項を適用してこの裁判の確定した日からいずれも四年間それぞれその刑の執行を猶予することとする。

なお、検察官は本件各暴行と金品奪取が包括して強盗罪として評価されうる限り、右傷害が強盗の犯意発生前後の右各暴行のいずれから生じたにせよ、傷害の結果が発生すれば、それらは包括して強盗致傷の評価を受くべきである旨主張するところ、強盗致傷罪が成立するためには、傷害が強盗の機会において生じたものであることを必要とし、ここに「強盗の機会において」というには傷害が少なくも犯人が強盗の犯意を生じた後の暴行によつて生じたものでなければならない。従つて、傷害が強盗の犯意を生じた前後いずれの暴行に起因したものであるか不明である場合には前者によつても受傷の可能性のあり得るところ、「疑わしきは被告人の利益に」の原則に従い、もはや当該犯人に対しては強盗致傷の罪責を問うことはできないものといわなければならない。これを本件についてみるに、前記認定のとおり、松下匠が被告人らに金員および腕時計を強取された場所で、被告人らの一連の暴行行為により傷害を受けたことは前掲各証拠により明らかであるが被告人らの強盗の犯意発生前後の各暴行の方法、程度および態様を検討すると、そのいずれによつても判示のような傷害を右松下匠に与えるのは不可能でないこと、本件が比較的短時間の接続した一連の暴行によるものであること等を考え合わせると、判示のとおり、前記傷害が被告人らの強盗の犯意発生の前後いずれの暴行によつて生じたものであるかについては証拠上明らかではないが、右傷害が判示場所において、被告人らの強盗の犯意発生前後のいずれかの暴行によつて生じたものであることは証拠上明らかであるので、被告人らは少なくとも傷害の結果についても責任を負わなければならないところ、判示暴行の時間的、場所的一連性ないしは接着性に着目して、強盗罪と傷害罪の混合した包括一罪として重い強盗罪の刑で処断すべきものと解する。

よつて主文のとおり判決する。

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例